労務相談Q&A

始業前の「何かやっている時間」は、労働時間になるのか?

Q
当事業所では、しっかりと準備をして業務が開始できるよう、始業10分前にはタイムカードの打刻を終え、業務を開始できるよう、指示をしています。それ以外特段指示はしていないのですが、職員たちは打刻後、事業所の掃除や書類の整理等をしてくれています。
先日従業員から「10分前に来るようにと指示がある以上、この10分間は労働時間になるのではないか?」とたずねられました。

A
この掃除等の行為が事業所の指示により行われているのであれば、一般的には労働時間にあたると考えられます。
この問題を考えるにあたって大切なポイントは、労働時間とはなにか?という点です。
漠然と「利用者と接している時間」や「事務仕事をしている時間」など思い浮かべることができるかと思います。労働時間について、最高裁判所判決(三菱重工業長崎造船所事件 最一小判平成12年3月9日)によると、労働基準法における労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことであるとしています。
 今回のケースに当てはめて考えると、事業所(使用者)の指示(指揮命令)により10分程度の掃除をさせていると推察されるため、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」、つまり労働時間にあたると考えられます。
 なお、この「事業所の指示」については、明示的なものと黙示的なものとのふたつに大別することができます。明示的とは、シフトやマニュアル、就業規則などにより明確に指示しているような場合を指します。例えば、勤怠集計時には9:00から集計をするとしても掃除時間を含めて8時50分出勤としたシフト表を作成したり、清掃マニュアルに「掃除は始業時刻前の10分間行う」と書いたりしている場合です。他方、黙示的とは、明示はされていないけれど、行わないことによって不利益な取り扱いを受ける場合を指します。例えば、事業を始めた当初はそれぞれの従業員が自主的に行っていた掃除が、現在は暗黙の了解として打刻前に掃除をすることとなっていて、掃除をしないことで評価を下げるような場合です。今回のケースは黙示的な指示により掃除をさせていると考えられます。なお、この場合、事業を始めた当初の従業員が自主的に行っていた掃除については、それぞれが自主的、自発的に行っているため労働時間には当たらないと考えられます。

「10分前行動を!」という、事業所側の言い分も、よく分かります。しかし、働く人とのちのちトラブルとならないよう、事業所として必要な掃除であるのかを見直し、必須でなければ「しっかりと定刻に始められるようにしておけば、それ以外の時間は自由ですよ。」というような、明確なメッセージを打ち出しておくことをお勧めいたします。